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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)1200号 判決 1993年2月22日

原告

吉村こと玄忠拡

被告

岸利道

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一八七一万七五七一円及び内金一六七一万七五七一円に対する平成二年三月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故の被害者が、加害車の運転者に対し自賠法三条に基づき損害賠償を求めた事件である。

一  争いのない事実など

1  事故の発生

左記の交通事故が発生した。

(一) 日時 平成二年三月六日午後六時二〇分頃

(二) 場所 大阪市生野区巽北二丁目一五番一八号先路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(なにわ五五と一八五八号)

右運転者 被告

右保有者 被告

(四) 被害車 自転車

右運転者 原告

2  受傷及び後遺障害

原告は、本件交通事故により、出血性シヨツク、外傷性肝破裂、後腹膜血腫、腹腔内出血、右肩甲骨骨折、第一ないし第五腰椎横突起骨折、頭部及び右上眼瞼挫傷、両手掌、両下肢挫傷の傷害を負い、左記のとおり入通院治療を受けたが、原告の症状は、骨盤骨に著しい奇形を残し(自賠法施行令二条別表一二級五号)、長管骨に奇形を残し(同一二級八号)、左下肢に頑固な神経症状を残す(同一二級一二号)ものとして平成三年五月八日固定し、自賠責保険は、原告の症状を右各障害により併合一〇級に該当するものと認定した(自賠責保険の認定については当事者間に争いがなく、その余の事実は甲六ないし甲一〇の各一及び二によつて認める。なお、原告の大阪厚生年金病院への通院については証明がない。)。

(一) 育和会記念病院

平成二年三月六日から同年四月二二日まで四八日間入院同月二三日から同年五月一二日まで通院(実通院日数一一日)

(二) 大阪厚生年金病院

同月一六日から同年七月二四日まで七一日間入院

(三) 阪和仙北病院

平成三年四月二二日から同年五月八日まで通院(実通院日数二日)

二  争点

1  事故状況、免責の成否

(一) 被告

本件事故は、原告が自転車に乗つて、本件道路の左端を東から西に向けて進行していたところ、原告は本件交差点東西道路信号(本件交差点西側の信号機)が青色を、南北道路の信号が赤色を表示しているのに、被告の直前で安全を全く顧みず、まるで競輪選手のように急にサドルを腰から上げて右折(北進)を開始したため発生したものである。被告は、原告の右後方を青色の東西道路信号にしたがい、西方へ直進しようとしており、原告のこのような常軌を逸した行動を全く予見することができず、そのため急制動、右転把にもかかわらず原告車と衝突したものである。また、加害車に構造上の障害又は機能上の欠陥も存在せず、被告には責任はない。

(二) 原告

本件交差点の信号状況については否認する。すなわち、原告が本件交差点を右折し青色の南北道路信号にしたがい北方へ横断しようとした際、被告が東西道路信号が赤色にもかかわらず本件交差点を西方へ突つ切つたため、本件事故が発生したものである。

2  損害額

(一) 原告

(1) 治療費 一一三万五〇七一円

(2) 入院雑費 一七万八五〇〇円(一日当たり一五〇〇円の一一九日分)

(3) 付添費 七一万四〇〇〇円(一日当たり六〇〇〇円の一一九日分)

(4) 交通費 三万円

(5) 休業損害 二一〇万円(一か月当たり一五万円の一四か月分、なお、原告は本件事故当時、父親の勤務する吉村工芸に工員として勤務し、月額一五万円の収入をえていた。)

(6) 入通院慰謝料 一九〇万円

(7) 後遺障害逸失利益 一一八六万円(基礎額を月額一五万円とし、一八歳から六七歳までの四九年間につき、年平均二七パーセントの労働能力を喪失したものとして、ホフマン式計算法により中間利息を控除して算出した金額)

(8) 後遺障害慰謝料 四三四万円

(9) 既払金(自賠責保険金) 五五四万円

(10) 弁護士費用 二〇〇万円

(二) 被告

既払金については認め、その余は争う

第三争点に対する判断

一  事故状況などについて

1  事実関係

(一) 前記争いのない事実に証拠(甲三、乙一ないし乙四、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(1) 本件事故現場は、市街地を東西に通じる道路(本件道路)と南北に通じる道路(南北道路)とが交差する、信号機により交通整理のなされている交差点(巽中一丁目西交差点・本件交差点)内である。

本件道路は、片側二車線でその中央には中央分離帯が、車道の両側には歩道が設けられている。南北道路は、いずれも本件交差点側への一方通行道路であり、道路端から一・五ないし一・六メートルのところに引かれた車道外側線によつて区画された車道の幅員は各二・九ないし四・五メートルである。

本件事故現場付近の道路は、いずれも平坦にアスフアルト舗装されている。

本件道路の最高速度は時速五〇キロメートルに制限されている。

本件事故当時、本件事故現場付近の道路面は乾燥状態であつた。

(2) 被告は、本件道路西行第二車線上を加害車を時速五〇キロメートルで運転し、本件交差点に至つた。そして、本件事故現場手前一九・一メートル付近で本件道路中央側に進出してくる被害車を認めて危険を感じ、急ブレーキを掛けたが、本件事故現場で被害車と衝突し、一二・五メートル離れた地点に停止した。

一方、原告は、ウオークマンをしながら、被害車(自転車)を運転し、本件交差点東詰め横断歩道の東側約六三メートル付近まで本件道路南側歩道上を進行し、同所から本件車道上にでた。そして、加速をしながら本件道路南端に沿うように進み、本件交差点東詰め横断歩道の東側約三一・五メートル付近からは人が走つても追い付かない程度の速度で進行を続けたのち、右折を開始し、本件道路を横断しようとし、本件道路西行第二車線上において加害車と衝突した。なお、原告も本人尋問において、同人が本件交差点東詰め横断歩道の東側約六三メートルで車道に出た当時、本件交差点東西車両用信号が青色を表示していたと供述している(一五項)。

(3) 本件事故により加害車の前バンパー左角、左前フエンダー角が軽微擦過し、左前角の車幅灯レンズが破損し、左前フエンダー部が擦過し、右前バンパーが凹損した。一方、被害車は、車体が中央部より右にくの字に曲損し、ハンドル右先端の樹脂グリップ先端が剥離擦過し、右ペタルがやや右に曲がるなどした。

(4) 本件交差点の信号周期は、一周期が一五〇秒で、東西車両用信号が青色八七秒の後、黄色三秒、赤色六〇秒であり、赤色のうち最初三秒と最後三秒が南北車両用信号側も赤色を表示する全赤信号になつている。

(二) 信号状況などについて

この点について、原告も本人尋問において、同人が本件交差点東詰め横断歩道の東側約六三メートルで車道に出た当時、本件交差点東西車両用信号が青色を表示していたと供述しており(一五項)、その時点で南北道路側の信号が赤色であることは明らかであり、問題はその後南北道路側の信号が青色に変わつたかである。

この点について、被告は、捜査段階において、本件交差点手前約八〇メートル地点で東西車両用信号(対面信号)青色を確認して加害車を進行させたと説明し(乙二)、本人尋問においては、更に本件交差点手前約五〇ないし二〇メートル地点でも対面信号青色を確認したと供述しているところ、この供述などは、衝突音を聞き本件交差点西側の東西車両用信号を見ると青色だつたとする目撃者加藤峰子の指示説明(乙三)とも整合していて信用でき(なお、前記認定の信号周期によれば、東西車両用信号が黄色になつてから再び青色になるまでには、六三秒もの時間を要するから、加藤がそれを混同・誤認するとは考えられず、その信用性は高いということができる。)、これらによれば、南北道路側の信号は原告が本件交差点に進入し、本件事故が発生した直後に至つても赤色のままであつたと認められるところで、これに反する原告本人の供述は信用できない。

2  判断

以上の事実によれば、原告は、東西車両用信号青色で、本件道路を東西に通行する自動車が多くあることが容易に予測し得る状態で、本件道路南端側から右折するような形で、加害車の前方一四メートル程の直近を、しかも相当な速度で横断しようとして本件事故に遭つたということになる。

一方、被告としても、本件道路は、広く、対面信号も青色であつたから、右のような直近で横断を開始する自転車があることを予測することはできない状態にあつたというべきことになる。

したがつて、本件事故につき、被害者には過失があり、被告には過失がないことになるところ、乙一及び弁論の全趣旨によれば、加害車には構造上の欠陥又は機能上の障害はなかつたものと認められるから、被告は自賠法三条但し書きによりその責任を免れることになる。

二  結論

以上によれば、本訴請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がないことになる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井英隆)

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